Audio Engineering Society 19th International Conference
Surround Sound: Techniques, Technology and Perception
Schloss Elmau, Germany
21 - 24 June 2001


・興味深いプレゼン&サウンドデモ。

なんと言っても一番人気はジョージマッセンバーグのセッションだった。MIX時のサラウンド定位やリバーブの秀逸な使い方には皆だまって溜息だが、元々ステレオMIXにおいても定評あるエンジニアで、根本の音の録り方、音創りも含めた総合的なバランス感覚とセンスが抜群で、勉強になる事は多々あれど、すぐに実践出来るような技術ではない。


応用可能な技術として収録時のマイキングに関する発表がいくつもあった。ディスクリート5CHマイクロフォンやサウンドフィールドマイク、深田ツリーなどだ。私が通常行なっているスペースマイキングと違い、基本的に従来のワンポイントマイキングかその拡張型で、これで音的にも音場キャプチャーという面でもうまくいくならセッティングも楽だし、毎回ある程度均一な条件での収録が可能になり、言うこと無しなのだがはたしてどうなのだろうか?


これらのマイキングの説明で必ず出てくるのが各マイクのセパレーションとレベルバランスだ。ステレオ1ポイント収録の歴史を初期からあらためてトレースしているような気がしないでもない。


<ご参考> 初期のステレオマイキングテクニックとしては2組の双指向性マイクを重ねて近接セットし、正面方向の收音レベルが左右の音に比べて3db低下するパンポットと同様の特性をもつブルムライン方式や、2本のマイクを90度から120度の開き角でセット、センター定位を多く收音しすぎないような形をとるクロスカーディオィド方式が好まれたが、その後、音源に向いた単一指向性マイクと直角にセットされた双指向性マイクを使用、後で広がりを修正出来るMS方式が多く使われるようになった。現在でも特にクラシックの分野ではノイマンのSM69やAMSのマイクによるMS方式の録音が多数行なわれている。 一方ペアの単一指向性マイク2本を近距離にセットする準同軸ステレオマイキングにもORTF方式(ペアの単一指向性マイク2本を間隔17センチ、開き角110度にセット)、NOS方式(ペアの単一指向性マイク2本を間隔30センチ、開き角90度にセット)、Stereo-180(超単一指向性マイク2本を間隔46センチ、開き角135度にセット)などがあるが、1ポイントマイクだけで収録するのは難しく、特にポップスの世界では今やマルチマイキングによる収録が一般的である。

特に、フロント側LRのマイクが完全に左右に90度、しかもスーパーカーディオィドを使用しているセットは私のレコーディングエンジニアの経験から言えば疑問符がつく。音響エネルギーを指標とした数値と聴感的な印象は必ずしも一致していないと思う。しかし、このマイクの提案を行なったGunther Theile氏の発表の中、Left-Center-Right PANと通常のLeft-Right PAN+Centerの定位の差や1950年代にベル研究所のW.Snowらが提唱した大規模なマルチチャンネル收音のスペースステレオマイキング(非常に多くのマイクとそれらを結ぶスピーカー群を水平面に並べ、正確な水平音場の再現を行なう。実際にはSpaced-apart Techniqueとして3本のマイクを使用、センターはファントムセンターで再生する。)の簡略版とも言える10mの距離に5本のマイクを並べたフロントマイクセッティングに関しては共感できる部分が多く、その彼が推すサラウンドセッティングに関しては追って追試を行なってみるつもりだ。(論文は30ページにおよび難解な上、限られた時間の中での発表、言葉の壁など、非常に興味ある部分の核心でまだよく理解出来ていない。)

もちろん私と同じ流儀のスペースマイキングに関するデモもいくつか行なわれたが、こちらはどうやら主流派ではないらしい。


新しいモノとしてはSignal Phased Array Microphoneなるものに関する発表があった。とても興味深い発表だったらしいのだが、カーオーディオのデモの予約と重なり残念ながら見のがしてしまった。


昨年のNABやサラウンドセミナーなどでも何度か指摘されているが、カーオーディオにおけるサラウンド再生はサラウンド関連で最も有望なマーケットの一つと思う。今回も二台の車を使用した5.1CHカーオーディオシステムの屋外デモがあった。要予約で約一時間のデモは人気で中々希望の時間には予約がとれなかった。一台はレキシコンのLogic7と呼ばれるシステムを搭載、2CHソースを5.1CHに展開するシステム、もう一台はDTSのディスクリートDVD&DTS-CD再生システムだ。個人的にはやはりディスクリートシステムの方が好きだが、これまでの愛聴盤も聞けるLogic7の評判も悪くはなかった。余談だがレキシコンは毎回おおむねどの展示会やコンベンションにもDevid Griesinger氏が参加し、業界の顔としてさまざまな情報交換を行なっている。今回の彼の発表、"The Psychoacoustics of Listining Area,Dspth, and Envelopment in surround Recordings and their relationship to Microphone Tecnique"はTime delay panningやサラウンドにおけるCenterスピーカーの正しい使用方法、The ideal direction for reflected energy等とても興味深いセッションだった。


再生系では"Wave Field Synthsis arrays of Loudspeakers"という発表&Demo。中々面白そうな技術だと思う。あのSTUDER社がやっており、フロントに4面のホワートボード状のフラットスピーカーを使用、それぞれのフラットスピーカーは内部が8チャンネル別々に駆動、アンプ内蔵でadatオプチカルでPCと接続、入力信号に対し仮想発音位置からスピーカーの実際に置いてある位置までの音の伝達を計算し、スピーカーが発音する部分で波面合成するという事らしい。(AES-SSS P155〜164)

私はこういったマルチセル型のスピーカーとその(フェィズドアレー的な)制御技術は将来的にとても大きな音場創成の可能性があると思う。


ソニーの1ビット、DSD関連、専用のバスをしつらえ予約性でデモスペースへ送迎、中々良い音でDSDサラウンドを聞かせていた。同時にSACD DSD Recordingシステムの紹介やSACD-editerも発表された。Key featureとしては2-24channel DSD Recording/playback、multi-channel editing、realtimeFX and MIX、realtime crossfadesなどが上げられていた。尚標準レコーダーとしてはGenex GX-8500、8チャンネルの1ビット録音が可能。ちなみにNHKはすでに試用している模様で今回も持ってきていた。



早稲田に関係ありそうな部分では

"Ambisonics Principles for the Recording and Reproduction of Surround Sound for Music"と題した発表の中で"Virtual Ambisonics Surround"や"Measurement of 3D Impulse Responses in theatres and concert halls"でのB&KやSoundfield MK-Vマイクを使用したImpulse Responseによる計測やソニーのDRE-S777を使用したAmbiphonics Systemの紹介があった。(AES-SSS P26〜46)http://www.ambiophonics.org

"PC Based Real-Tome Multichannel Convolver for Ambisonic Reproduction "(AES-SSS P47〜53)

またYork大学の発表"Surround-Sound Reverbration useing Digital Waveguide Mesh Modelling Techniques"(AES-SSS P67〜74)

長岡工科大学の研究発表の中、"Technic of sound image localization"(AES-SSS P321〜330)

SchopsのJoerg Wuttke氏によるGeneral Considerations on Audio Multi-Channel Recordingと題した発表の中でサラウンド用に使用される様々なマイクロフォンに関した説明がある。(AES-SSS P167〜P175)

※AES-SSS: 各講演やデモ、ペーパーの内容を記述したAESサラウンドスペシャルセッションの参加者用小冊子(A4厚さ約25ミリ)を指す。同名のCD-ROMも有り。