Audio Engineering Society 19th International Conference
Surround Sound: Techniques, Technology and Perception
Schloss Elmau, Germany
21 - 24 June 2001

センタースピーカー

昨年のNABで併設されたサラウンドセミナーでは主催のトムホルマン氏ほか参加者の主流派はセンタースピーカーは当然使用が前提という映像系や放送関係の方々だった。しかし音楽業界では今でもセンタースピーカーに懐疑的なエンジニアが多い。そんな中、センタースピーカーをあまり使用しない事で知られるジョージマッセンバーグ氏のサウンドデモは超満員。年代別にいくつかの作品を聴き、活発な質疑応答が行なわれたが、どうやら最近は以前程否定的な立場では無いようだ。スクリーンやCRTがセンターに有り、センタースピーカーを良好なポジションにセット出来るかどうかは問題だが、ハードセンターと、ファンタムセンターの聞こえ方や音質が明確に違うのは事実で、音楽の方向性やプロデューサー、アーティストの希望がハードセンターを使用して満たされるなら使う事もやぶさかではないとの事。一つには彼がつきあっているアーティスト達が半端でない大物が多いということにも起因している。

紹介されたエピソードの中、リンダロンシュタットのDTSミックスの中で「何故トランペットが後方から聞こえるか?」についての解説があった。

MIXも最終段階にさしかかった時、リンダロンシュタットが試聴後、「ステージではトランペットのソロは私の後方から鳴っていたのでそのほうがいいなぁ!」と言い出した。すべてのミックスは客席からステージを向いた形で構成されていたが、彼女のアルバムで彼女が望む事を誰がNoと言える?誰もNoとは言えない。ましてエンジニアはアーティストが望むものを創りだすのが仕事だ。客はアーティストの作品にお金を払う訳で私の作品にお金を払うわけではない。

確かに一理も二理もある。商品を買う客がセンタースピーカーを設置しているかどうかはともかく、スタジオ内でアーティストが望む方向の音を創りだせるかどうかはエンジニアの仕事としては次があるかどうかを決定せしめる重要な問題だし、CDだろうがDVDだろうが誰がエンジニアをやろうがその作品はアーティストの作品である。

私が中島みゆきの5.1MIXをやった際は彼女も立ち会い、彼女の好きな方向性の作品に仕上げた。結果的には私の好みも尊重されセンタースピーカーは使用しなかったが、メーカーからの要望で「この作品は制作者側の意図によりセンタースピーカーを使用しておりません」という一文がプリントされた。

本来、360度全周をカバーするにはスピーカーの数が多いほど有利と言われているが、最低限の数でエンタテイメントとして音楽や映像を楽しむためにはいくつのスピーカーが必要かという議論の末、現在の5.1サラウンドという規格が制定された。最近では後方にもセンタースピーカーをおく6.1CH方式も登場。グラミーを受賞したグラデュエーターも6.1CH方式である。

コンシューマーマーケットにおけるスタンダードがどうなるかは皆目見当もつかないが、私の主観ではリビングに置くような場合、なんらかのワイアレス方式の小型後方スピーカーが三個。構成の6.1CH方式。すなわち後方はSL、SR、後方センター+スーパーウーファーあたりが妥当な落としどころだと思う。フロントセンターは私の自宅リビングに置く事はまず無いと思う。(ただし仕事部屋にはやむをえず現在も有る。)